2023年6月の法人税(Corporate Tax)施行以降、UAEにおける会計はその性格が大きく変わりました。かつては銀行や投資家から求められた場合にのみ財務諸表を作成すれば足りましたが、現在はすべての課税対象法人が会計帳簿に基づいて法人税を申告する必要があり、連邦税務庁(FTA)による調査も帳簿から始まります。フリーゾーン法人も例外ではありません。
1. UAEの公式会計基準:IFRSが原則
UAE法人税法上の課税所得は、IFRS(国際財務報告基準)に従って作成された財務諸表を出発点として計算します。ただし、規模に応じた選択肢が設けられています。
- 原則:IFRSの全面適用
- 年間売上5,000万ディルハム以下:簡素化されたIFRS for SMEsの適用が可能
- 年間売上300万ディルハム以下:現金主義(Cash Basis)会計の選択が可能
本社がIFRSを採用しているグループであれば、UAE法人もフルIFRSに揃えるほうが連結決算上は有利です。他方、現地単独の小規模法人であれば、IFRS for SMEsにより記帳負担を軽減することが実務上は合理的です。
2. 記帳・財務諸表は誰の義務か
結論から申し上げると、UAEで事業を行うほぼすべての法人が対象です。商法(Commercial Companies Law)上、会社は会計帳簿を維持しなければならず、法人税法はすべての課税対象者に対し、課税所得を立証できる財務諸表および帳簿・証憑の作成・保存を求めています。
特に注意が必要なのはフリーゾーンです。法人税0%の優遇を受けようとする適格フリーゾーン法人(QFZP)ほど要件は厳格であり、監査済み財務諸表がなければ優遇の維持はできません。「フリーゾーンだから帳簿は作らなくてよい」という、まったく逆の誤解が依然として多く見られます。
3. 監査(Audit)はいつ義務となるか
法人税の観点から監査済み財務諸表が義務となる対象は、次の2つです。
- 年間売上(総収益)が5,000万ディルハムを超える法人
- 適格フリーゾーン法人(QFZP):売上規模にかかわらずすべて
これに加えて、DMCCやJAFZAをはじめとする相当数のフリーゾーンでは、ライセンス更新の条件として毎年の監査報告書の提出を求めています。税法上の監査義務がなくても、フリーゾーン規則により監査が事実上必須となるケースが多いため、法人が所在するフリーゾーンの規則を別途ご確認ください。
4. 帳簿・証憑は何年保存すべきか
- 法人税:当該課税期間の終了後7年
- VAT:5年(不動産関連の記録は15年)
- 商法:会計帳簿は最低5年
実務上は、最も長い基準である7年に合わせて一括で保存することをお勧めいたします。契約書、インボイス、銀行取引明細、給与記録に至るまで、課税所得を裏付ける証憑一式が対象であり、FTAから求められた際に提出できる状態にしておく必要があります。
2026年から段階的に施行される電子インボイス(E-Invoicing)制度では、インボイスデータの未保管に対して1件あたり10,000ディルハムの罰則が課されます。帳簿の保存は、もはや「税務調査への備え」にとどまらず、それ自体が罰則リスク管理の項目となっています。
5. 日系企業の実務ポイント4つ
- 会計年度の設定:本社と決算期を揃えるか(12月)、UAEの慣行(6月など)に従うかを法人設立の段階で決定しておくことで、その後の法人税申告期限が錯綜することを防げます。
- 機能通貨と換算:帳簿はディルハム(AED)建てが原則であり、本社連結を目的とした自国通貨への換算体系を別途整備する必要があります。
- 月次決算体制:期末にまとめて行う記帳は、法人税申告の品質を低下させます。月次での締めと証憑の整理が、結果としてコストの節約につながります。
- アウトソーシング先の確認点:記帳代行を委託する際には、担当者が実際に会計の資格を保有しているか、法人税・VAT申告まで一貫して責任を負う体制か、日本語でのコミュニケーションにより本社への報告まで支援されるかをご確認ください。
おわりに
UAEにおいて会計は、もはや後回しにしてよい管理業務ではありません。会計基準の選択が法人税の計算を左右し、帳簿の品質が税務調査への対応とフリーゾーン優遇の維持の成否を分けます。法人設立の段階であれば会計年度と記帳体制から、すでに運営中であれば監査義務と保存状況から点検されることをお勧めいたします。具体的な事案は事業構造によって異なりますので、ご相談を通じてご確認ください。