UAE財務省は2025年9月、大臣令第243号・第244号により電子インボイス(E-Invoicing)制度の法的根拠と施行スケジュールを確定し、その第一段階であるパイロットプログラムが2026年7月1日に開始されました。サウジアラビア(2021年)、バーレーン(2024年)に続き、GCCで3例目の電子インボイス義務化となります。大企業のASP指定期限(2026年7月31日)はすでに経過しており、次の関門は2027年1月1日の大企業義務化です。
電子インボイスは単なる書式の変更ではありません。企業間(B2B)および企業・政府間(B2G)のすべての取引データが、準リアルタイムで政府システムに報告される構造的な転換です。準備のないまま義務化日を迎えた場合、取引先とのインボイス交換そのものが行えなくなるおそれがあります。
1. 施行スケジュール:自社はいつからか
基準となるのは、直近会計年度の財務諸表上の総収益(年間売上)5,000万ディルハムです。フリーゾーンか否かにかかわらず、UAE国内でB2B・B2Gの課税取引を行うすべてのVAT登録事業者が対象となります。
- 2026年7月1日:パイロット開始、任意参加の受付開始 (経過)
- 2026年7月31日:年間売上5,000万ディルハム以上の企業のASP指定期限 (経過)
- 2027年1月1日:大企業(5,000万ディルハム以上)の電子インボイス義務化
- 2027年3月31日:5,000万ディルハム未満の企業のASP指定期限
- 2027年7月1日:中小企業の義務化
- 2027年10月1日:政府機関(B2G)の義務化
B2C取引、政府の主権的活動、電子航空券に代替される航空輸送(24か月猶予)、一部の免税・ゼロ税率の金融サービスは、当面のあいだ適用対象から除外されます。
2. ASP指定義務と期限
UAEの電子インボイスは、事業者が自ら直接発行する仕組みではありません。必ず財務省の認証を受けたASP(Accredited Service Provider)を通じてのみ発行・受領・保管が可能であり、FTAへの直接連携は認められていません。供給者 → 供給者側ASP → 受領者側ASP → 受領者へとつながる、いわゆる「5コーナーモデル」であり、双方のASPがそれぞれFTAに税務データを報告します。
年間売上5,000万ディルハム以上の企業のASP指定期限は、2026年7月31日ですでに経過しています。まだ指定していない場合、未指定期間について月5,000ディルハムの罰則が課されるおそれがあるため、直ちに契約を進める必要があります。5,000万ディルハム未満の企業の期限は2027年3月31日です。ASPの選定にあたっては、サービス範囲、費用構造(月額制・件数課金)、ERP連携の対応可否、対応言語を比較する必要があり、財務省ウェブサイトで公開されている事前承認ASPの一覧は定期的に更新されています。
3. PDFの税務インボイスは効力を失う
大臣令第243号は、電子インボイスを「電子的な方法で作成・送信・受領・保管される構造化データ形式の税務インボイス」と定義しています。要点は構造化データであるという点です。PDF、Word、画像ファイル、スキャンデータ、電子メールの添付は電子インボイスとして認められません。
すなわち、現在のようにExcelで作成してPDFに変換し電子メールで送付する方法は、義務化日以降、正式な税務インボイスとしての効力を失います(参考資料としての添付は可能です)。技術要件は、XMLまたはJSON形式、UBL 2.1 / PINT AE標準、Peppolネットワーク経由での送信、取引日から14日以内の送信、およびUAE国内での保管です。
4. 罰則:未指定だけでも月5,000ディルハム
2025年閣僚令第106号が罰則の内容を具体化しています。
- 電子インボイスシステムの未導入・ASP未指定:月5,000ディルハム(未指定期間は毎月課される)
- 未発行・発行遅延:1件あたり100ディルハム(月額上限5,000ディルハム)
- システム障害時のFTAへの未届出(2営業日以内):1日あたり1,000ディルハム
- 電子インボイスデータの未保管:1件あたり10,000ディルハム、24か月以内の再違反時は1件あたり20,000ディルハム
パイロット期間に任意で参加する企業には、上記の罰則は適用されません。システムの安定性を検証できる事実上の無料リハーサル期間ですので、対象企業には積極的な活用をお勧めいたします。
5. いま取り組むべき5つのこと
- 売上基準の確認:直近会計年度の総収益が5,000万ディルハムを超えるかどうかを、グループ内のUAE法人ごとに確認する
- ERP・会計システムの点検:XML/JSON出力に対応しているか、未対応の場合のアップグレード方針
- ASPの比較・契約:複数社から見積を取得し、大企業は期限を過ぎているため直ちに契約する
- 取引先との協議:主要取引先のASP指定状況と受信準備状況を確認する(一方のみ準備済みでは交換不可)
- 社内準備:財務・購買・IT担当者への研修、業務プロセスマニュアルの整備
おわりに
2023年の法人税導入時には、「フリーゾーンは免税」という過去の認識にとどまったまま登録期限を逃し、1万ディルハムの罰則を負担した企業が少なくありませんでした。電子インボイスで同じ轍を踏む理由はありません。ASPの選定からシステム連携、テスト、研修まで通常6か月以上を要するプロセスであるだけに、対象企業はいますぐ準備に着手されることをお勧めいたします。
本テーマに関する筆者の詳細な寄稿は、KOTRA海外市場ニュース(韓国語)にも掲載されています。個別企業への適用可否と対応戦略は事業構造によって異なりますので、具体的な事案についてはご相談ください。