UAEは長らく法人税のない市場として知られてきましたが、2023年6月1日以降に開始する会計年度から連邦法人税(Corporate Tax)が本格導入されました。日本本社を持つ企業がUAEに子会社・支店を有している場合、単純な売上・収益管理の段階を超え、申告義務、免税枠、フリーゾーン資格の維持など、総合的な税務管理が求められます。
本ガイドは、UAEに進出する日系企業の実務担当者が意思決定段階で確認すべき5つのポイントを整理したものです。具体的な適用や申告手続きは案件ごとに大きく異なるため、最後の相談案内をご参照ください。
1. 制度の概要 — 誰に、いつから適用されるか
UAE法人税は2023年6月1日以降に開始する会計年度から適用されます。日本本社の会計年度が4月1日~3月31日の場合、その会計年度に連動するUAE子会社も通常同じ時点から最初の課税年度が始まります。
適用対象はUAEに登録されたすべての法人(Mainland法人、フリーゾーン法人を含む)と、一定の要件を満たす外国法人のUAE恒久的施設(Permanent Establishment)です。売上規模に関係なく申告義務自体が発生するため、「当社は小さな法人だから対象外」と自社判断するのは危険です。
2. 税率構造 — 0%と9%の境界
UAE法人税の税率はシンプルです。一般的に知られている構造は以下の通りです。
- 課税所得AED 375,000以下:0%
- 課税所得AED 375,000超:9%
- 多国籍企業グループ(MNE Group)としてBEPS 2.0 Pillar Twoの対象となる場合、別途グローバル最低税率(15%)ルールが適用
0%と9%の区分は単純な数字に見えますが、グループ通算(Tax Group)、移転価格調整、繰越欠損金控除限度など複数の変数が組み合わさると、実効税率は変わり得ます。グループ内取引の多い日系企業は、単純な名目税率よりもグループ全体の効果を併せて確認する必要があります。
日本本社がBEPS 2.0 Pillar Two適用対象(連結売上7.5億ユーロ以上)の場合、UAE子会社の9%税率はグローバル最低税率15%を下回るため、本社レベルで追加負担が発生する可能性があります。本社単位での事前シミュレーションが不可欠です。
3. フリーゾーン法人のQFZP資格維持
UAEのフリーゾーン(JAFZA、DMCC、ADGM、DIFCなど)法人は、一定の要件を満たすとQualifying Free Zone Person(QFZP)として、適格所得に対し0%税率を維持できます。ただしこれは自動的に保証されるものではなく、毎年以下の要件を点検する必要があります。
- フリーゾーン内で適切な実質活動(Adequate Substance)を維持しているか
- 適格所得(Qualifying Income)と非適格所得を区分する会計処理が整っているか
- De Minimis限度(非適格所得の一定比率)を超えていないか
- 移転価格文書化義務を満たしているか
一つの要件でも満たさない場合、その年度全体に対し9%が一括適用されることがあり、フリーゾーン法人だからといって安心はできません。
4. 申告期限と会計年度の管理
UAE法人税の申告期限は会計年度終了後9ヶ月以内です。会計年度が3月末で終了する一般的な日本企業のUAE子会社の場合、翌年12月末までに申告を完了する必要があります。四半期予納の義務は通常ありませんが、電子申告システム(EmaraTax)への登録自体は事前に完了している必要があります。
会計年度変更時の注意点
日本本社基準で会計年度を4月~3月で運用している場合と、1月~12月(韓国・欧米型)で運用している場合、UAE子会社の最初の課税年度の開始時点が異なります。会計年度の変更はFTAの事前承認なしに任意で行うことができないため、必ず事前のコンサルティングが必要です。
5. FTA税務調査対応のための文書化
UAE連邦税務庁(FTA)は申告後、一定期間内に任意の税務調査を実施することがあります。調査段階で資料不備によるペナルティを防ぐためには、以下の資料がシステム的に保管・検索可能な状態である必要があります。
- 月次決算資料(元帳、仕訳帳、補助簿)
- 取引先別インボイスおよび契約書
- グループ内取引(Related Party Transactions)に関する移転価格文書
- 従業員給与・福利厚生関連資料
- VAT申告書との整合性資料
特にグループ内取引の移転価格文書は、UAE単独の資料だけでは不十分なケースが多く、日本本社・他のグループ会社との整合性が重要です。本社レベルのマスターファイルとUAEローカルファイルが一貫して作成されている必要があります。
おわりに
UAE法人税は単に9%を追加で支払うという変化ではなく、グループ全体のグローバル税務戦略の見直しを促す転換点です。フリーゾーン資格の維持、移転価格文書化、FTA税務調査対応まで — 日系企業のUAE進出における各段階で対応すべき詳細が増えています。
本ガイドの内容は一般的な情報であり、個別案件の具体的な適用は会計年度、事業構造、グループ売上規模により異なり得ます。正確な適用や申告戦略については、別途のアドバイザリーを通じてご確認いただくことを推奨いたします。