12月決算法人であれば、2025課税期間の法人税申告期限は2026年9月30日です。申告書の中には、関連者(Related Party)との取引を記載する移転価格開示フォームが含まれています。日本本社と取引のあるUAE法人は、ほぼ例外なくここに該当します。本社に支払う役務対価、本社から配賦される経費、ロイヤルティ、本社からの借入金の利息は、すべて関連者取引です。
開示フォームは申告書の一部であるため、別途意識していないと申告直前になって初めて目に入ります。その段階で取引金額や独立企業間価格の算定方法を初めて整理するのでは遅すぎます。
1. 開示フォームは申告書の一部です
UAE法人税法第55条第1項により、関連者(Related Party)または関係者(Connected Person)との取引があり、その規模が基準を超える納税者は、法人税申告書とあわせて移転価格開示フォーム(Transfer Pricing disclosure form)を提出します。別の期限はありません。申告期限がそのまま開示の期限であり、課税期間終了後9か月です。
フォームには、取引の種類と金額、取引相手、独立企業間価格の算定に用いた方法を記載します。関係者には株主、役員、およびその親族が含まれます。大株主への給与や、役員の親族が保有する会社への支払いも同じフォームに載ります。
開示対象となる取引規模の基準は、UAE連邦税務庁(FTA)の申告書ガイダンスで定められています。日本本社と経費配賦や役務取引がある法人であれば、対象であると考えて準備しておくのが安全です。
2. ローカルファイルとマスターファイル:基準は2つ
開示フォームとは別に、一定規模以上の法人はローカルファイルとマスターファイルを備えなければなりません。閣僚決定第97号(Ministerial Decision No. 97 of 2023)が定める基準は2つで、どちらか一方に該当すれば両方の文書を作成します。
- 当該課税期間における自社の収益がAED 2億以上
- 連結収益AED 31億5,000万以上の多国籍企業グループの構成会社であること
日系企業にとって重要なのは連結収益の基準です。UAE法人自体の収益が小さくても、日本本社グループの連結収益が基準を超えていればローカルファイルの義務が生じます。自社の収益だけを見て対象外と判断している会社がありますが、まずグループの連結収益から確認する必要があります。
ローカルファイルにどの取引を含めるかも閣僚決定が定めています。非居住者との取引は含まれます。日本本社はUAEの非居住者ですから、本社との取引は常にローカルファイルの対象です。免税法人との取引、小規模事業者救済を選択した法人との取引、適用税率が異なる居住者との取引も含まれます。フリーゾーン0%法人と本土9%法人の間の取引がこれに当たります。同じ税率が適用されるUAE居住法人同士の取引は除外されます。
| 文書 | 対象 | 時期 |
|---|---|---|
| 開示フォーム | 関連者取引が基準を超えるすべての納税者 | 申告書とあわせて。課税期間終了後9か月 |
| マスターファイル・ローカルファイル | 自社収益AED 2億以上、または連結収益AED 31億5,000万以上のグループの構成会社 | 保管し、FTAの要請があれば提出 |
| 国別報告書(CbCR) | 連結収益AED 31億5,000万以上の多国籍企業グループ | 最終親会社の所在地基準。日本本社グループであれば日本で提出 |
| 追加資料 | FTAが要請した納税者 | 要請時 |
ローカルファイルとマスターファイルは申告書とあわせて提出するものではありません。作成して保管しておき、FTAから要請があれば提出します。要請が来てから作り始めると、ベンチマーク分析一つ行う時間すら足りません。
3. 基準未満でも独立企業間原則はそのまま
収益がAED 2億に満たず、グループも小さければ、ローカルファイルの義務はありません。しかし法人税法第34条の独立企業間原則は規模に関係なく適用されます。基準未満の法人は定められた様式がないだけで、本社との取引が独立企業間価格であることを示す資料は必要です。FTAはベンチマーク分析などの裏付け資料を求めることができます。
実務で最初に問われるのは、本社への役務対価をどのように受け取っているかです。原価に何パーセントを上乗せするかというポリシーがあり、決算がそのポリシーどおりになっていれば説明は容易です。ポリシーは原価加算10%なのに決算では4%になっていれば、まずその差を説明しなければなりません。ポリシー自体がなければ、ポリシーとベンチマークの両方を新たに定める必要があります。
独立企業間価格への調整は申告書で行います。決算がポリシーと乖離している場合、帳簿を後から書き換えるのではなく、申告書で調整し、その根拠をローカルファイルまたは裏付け資料に残します。
4. 支店と法人では問われることが違います
UAEに支店(Branch)として進出した会社と、別法人として進出した会社では、移転価格で問われる内容が異なります。
支店は本社の一部です。UAEでは恒久的施設に帰属する所得を独立企業間価格で区分しなければならず、日本ではその所得が本社の所得に合算されます。論点は一つです。帰属所得をどのように区分したかです。本社と支店の間の契約書、対価を算定した根拠、実際にどちらがどの業務を行ったかの記録。この3つが揃って初めて、両国の税務当局に同じ説明ができます。
別法人であれば、UAEの移転価格に本国の外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)が加わります。人員と事務所を置いて実際に事業を行っていれば実体基準で除外されますが、その根拠となるのは移転価格ローカルファイルの機能分析と同じ資料です。2つの文書を別々に作る理由はありません。
UAEでフリーゾーンの0%を守るほど、実効税率は本国の合算税制の基準を下回っていきます。UAEで節約した税金が、日本側で株主に合算課税される可能性があるということです。移転価格ポリシーを定める際にUAEの税率だけを見ていると、この点を見落とします。
5. 昨年の文書がある会社は変わった点だけを見る
2024課税期間が初めての法人税申告だった会社は、今年が2回目の申告です。昨年ローカルファイルを作成していれば日付だけを変えて済ませたくなりますが、それは危険です。機能とリスクは概ね変わりませんが、次の4点は毎年変わります。
- 人員数。現地の人員が増減すれば機能分析が変わります
- 取引金額。本社への役務対価と経費配賦の規模
- 比較対象企業。ベンチマークに用いる比較対象企業の財務データは毎年更新します
- 規制。2025年から、連結収益7億5,000万ユーロ以上のグループにはUAEの国内ミニマムトップアップ税(15%)が適用されます
この4点さえ確認すれば、昨年の文書の残りはそのまま使えます。この4点を見ずに置いたままの文書は、今年の決算と数字が食い違ったままFTAに渡ることになります。
6. 日本本社と数字を合わせる順序
日本本社も同じ取引を日本の税務当局に申告しています。UAEのローカルファイルに記載した取引金額と算定方法が日本側の申告と異なれば、双方から質問が来ます。日本の申告はUAEの9月30日より先に終わっているのが通常で、日本が先に数字を確定し、UAEが後に続く構造です。
順序は次のとおりです。グループの移転価格ポリシーを確認します。UAEの決算数値がそのポリシーどおりになっているかを見ます。日本本社が申告した内容と照合します。食い違いがあればUAEの申告書で調整して合わせます。日本側は申告後の修正が容易ではないため、食い違いが見つかった場合はUAE側で合わせるのが現実的です。
今年9月の申告を終えれば、まもなく来年の日本側の申告準備の時期になります。今回整理したポリシーとベンチマークが、そのまま来年の双方の申告の出発点になります。
おわりに
開示フォームを埋めるのに必要なものは3つです。関連者ごとの取引金額の集計、その取引の契約書、そして対価を定めたポリシー文書です。集計は決算帳簿から出ますが、契約書とポリシー文書は本社にあることが多く、依頼して受け取るまでに時間がかかります。9月30日までの残り期間を考えると、本社への資料依頼から始める必要があります。
本記事は一般的な情報を整理したものです。開示対象となるか、また文書化義務の有無はグループ構造、取引の種類、会計年度によって異なりますので、個別の案件は別途ご確認ください。