10月1日から、UAE VATに関する2つの規定が同時に施行されました。VAT施行規則を改正した閣僚決定149号と、仕入税額控除を行う前にサプライヤーおよび取引を確認する手続を定めたUAE連邦税務庁(FTA)決定13号です。
UAEに現地法人や支店を持つ日系企業にとって影響が大きいのは決定13号です。タックスインボイスを受領しただけでは仕入税額控除が担保されなくなりました。サプライヤーを確認した記録が併せて必要です。施行規則の改正で実務に効いてくるのは、現金決済・従業員宿舎・複合供給の3点です。
1. いつから適用されるか
閣僚決定149号は2026年9月1日に公布され、2026年10月1日から施行されています(第3条第1項)。FTA決定13号も同日施行です(第7条)。10月の取引分からすでに適用されているということです。
例外が1つあります。課税供給と非課税供給の双方を行う事業者の仕入税額按分方法(施行規則第55条第6項・第7項・第19項)は、2027年10月1日以後に開始する最初の課税年度から適用されます(第3条第2項)。
2. サプライヤー確認 ― 誰を、何を、いくらから
出発点は2026年1月1日に施行されたVAT法改正(連邦法令16号(2025))です。財務省の説明によれば、納税者は仕入税額控除を行う前に、FTAが定める手続に従って当該供給の正当性と健全性を確認しなければなりません。FTAは、その供給が脱税スキームの一部であると判断した場合に控除を否認できます。この確認手続を定めたのが、2026年7月22日に公布された決定13号です。
サプライヤーについては、次の3点を確認します(第3条)。
- 身元:法人であれば、公式データベースまたは設立証明書により設立の事実を確認します。サプライヤーを代表する者の身分証明書(エミレーツIDまたはパスポート)の写しも入手します。個人であれば身分証の写しを入手し、取引前に対面またはオンラインで面談します。
- 事業所:実際の事業所が存在するかを電子的手段または現地訪問により確認します。その事業所が当該事業の内容と整合しているかも確認します。
- リスク兆候:過去12か月間に所在地または主要人員を2回を超えて変更していないか、事業規模や取引履歴に照らして取引が過大または異例でないかを確認します。該当する事項があれば合理的な説明を記録として残し、求められた場合にFTAへ提出します。
1社のサプライヤーから受ける供給が12か月間でAED 375,000を超えた場合、または超えることが見込まれる場合には、さらに2点が加わります。UAEの銀行が発行した口座保有証明をサプライヤーから入手し、信頼できる情報源による公開レピュテーションや報道を検証します(第3条第4項)。この証明は購入者宛てに発行されたものである必要はありません。
供給ごとに確認すべき事項もあります(第4条)。取引に実際の事業上の理由があるかを確認します。対価は電子的手段で支払う必要があり、現金による場合は文書化された事業上の理由があり、かつ税法が定める上限の範囲内であることが求められます。価格やマージンが理由なく市場水準と大きく乖離していないか、サプライヤーのライセンスの範囲内の取引かも確認します。物品であれば、真正品であるか、サプライヤーに処分権限があるかまで確認します。
サプライヤー確認は初回取引時に行い、過去12か月以内に確認していない場合は再度行います。供給については都度確認します。確認のプロセスと証憑は保存します。誰が実行し、レビューし、監督するかを定めた社内ポリシー文書も整備する必要があります(第5条)。
少額取引は対象外です。VATを除く対価がAED 10,000未満の供給については、この手続を省略できます(第6条第1項)。ただし、当該サプライヤーから受けた供給が12か月間でAED 100,000を超えた場合、または超えることが見込まれる場合には、この免除は適用されません(第6条第2項)。件別金額ではなく、サプライヤー別の累計で見る必要があるのはこのためです。
税務手続法第51条は、申告内容の真実性に関する立証責任が納税者にあると定めています。サプライヤー確認を行った事実を記録として残していなければ、説明を求められた段階でそれを証明する手段がありません。
3. 施行規則で実務に効く3点
現金決済
施行規則第54条第3項が新設されました。大臣決定で定める金額を超える供給の対価を現金で支払った場合、または支払う予定である場合は、仕入税額控除を受けられません。基準金額と詳細な統制は当該大臣決定が定めます。
従業員宿舎
労働法が義務として定める従業員給付に係る仕入税額は控除できます。しかし、改正後の第53条第1項(c)号1目は、雇用主が提供する宿舎をここから除外しました。人的資源・エミラタイゼーション省(MOHRE)の決定またはガイダンスが宿舎の提供を義務として定めている場合に限り控除できます。契約上の義務または文書化された社内ポリシーに基づく従業員給付については、FTAが定める場合および条件に従います(同号2目)。従業員関連費用の仕入税額控除については、別途FTA決定17号(2026)が公表されています。
複合供給
新設された第4条第6項は、複数の要素からなる供給であっても、その性質と経済的実質に照らして各要素が結びついており分離できない場合には、単一の複合供給として扱うと定めています。税率は主たる要素に従います。税率の異なる要素を分けて請求してきた契約があれば、見直しが必要です。
4. その他の改正条項
- 資本資産(第57条第1項):税抜原価AED 5,000,000以上、耐用年数は建物10年・その他5年という基準は改正前と同じです。定義の文言が「単一の支出項目」から「事業用資産」に変更され、VAT法の条文参照が整理されました。
- 按分(第55条第6項・第7項・第19項):課税供給の割合を供給総額に対して計算します。資本資産の供給およびVAT法第48条に基づく対象財・サービスの受領は計算から除外し、割合は最も近い整数に四捨五入します。政府機関および慈善団体は第19項の方法に従います。前述のとおり、2027年10月1日以後に開始する課税年度からの適用です。
- 金融サービス(第52条第2項):国外顧客に提供した金融サービスの仕入税額控除において、顧客のUAE滞在期間が30日未満であり、かつその滞在が当該供給と実質的に関連しない場合には、国外に所在するものとみなします。改正前は「短期滞在」とのみ記載されていました。
- 医療用品(第41条第4項):ゼロ税率の対象を、閣僚決定で定める医療製品と、ゼロ税率の医療サービスに必要なものとして併せて供給される物品に整理しました。
- マージンスキーム(第29条第5項):購入価格に、物品の取得に要した費用および手数料を含めることができます。当該費用に係る仕入税額が控除されない場合に限られます。
- タックスクレジットノート(第60条第1項(a)号):「Tax Credit Note」の文言を明確に表示する必要があります。
1月1日に施行されたVAT法改正では、リバースチャージを適用する際に自己インボイスを発行する必要がなくなった代わりに、供給に関する証憑を保存することとされました。精算後に残る還付税額の還付申請には5年の期限が設けられました。
5. いま点検すべきこと
- 仕入先リストにサプライヤー別の12か月累計を付す。AED 375,000およびAED 100,000を超える先から確認に着手する
- サプライヤー確認を購買承認フローのどこに組み込むかを決め、実行・レビュー・監督の担当を明記したポリシー文書を作成する
- 現金で対価を支払っている取引を洗い出し、振込に切り替えられるかを検討する
- 従業員宿舎に係る仕入税額を控除してきた場合は、MOHREの決定またはガイダンス上の義務に当たるかを確認する
- 複数の要素を分けて請求している契約の税率処理を見直す
- タックスクレジットノートの様式に「Tax Credit Note」の文言が出力されるか、ERPのテンプレートを確認する
おわりに
今回の改正により、仕入税額控除の要件が変わりました。タックスインボイスだけでは足りず、サプライヤーと取引を確認した記録が併せて必要です。10月の取引分からすでに適用されていますので、確認手続がまだ整っていない場合は、累計金額の大きいサプライヤーから着手するのが現実的です。
本稿は公開されている法令原文および財務省の公表資料を整理したものです。決定13号および17号の詳細要件は業種や取引形態によって適用が異なりますので、個別案件については別途の検討をお勧めします。